大判例

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名古屋地方裁判所 昭和60年(ワ)970号 判決

第一・第二事件原告

曾我海五

ほか一名

第一事件被告

倉橋昌己

ほか一名

第二事件被告

大山英勝

ほか一名

主文

一  被告ら(第一、第二事件被告ら、以下同じ)は連帯して、原告海五に対し金三四八万四一七二円及びこれに対する昭和五七年一一月一八日から完済に至るまで年五分の割合による金員、原告政夫に対し金三四八万四一七二円及びこれに対する昭和五七年一一月一八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告ら(第一、第二事件被告ら、以下同じ)の被告らに対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告ら、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項につき、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは連帯して原告海五に対し金七二〇万三二〇〇円及びこれに対する昭和五七年一一月一八日から完済に至るまで年五分の割合による金員、原告政夫に対し金七二〇万三二〇〇円及びこれに対する昭和五七年一一月一八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (交通事故の発生)

亡曾我光子(原告海五の妻、同政夫の母)は左記交通事故により死亡した。

(一)(1) 日時 昭和五七年一一月一八日午前一〇時二〇分頃

(2) 場所 岐阜県羽島市江吉良町地内名神高速道路 下り線三六八・八kp線上

(3) 被害者 曾我光子(以下「亡光子」という)

(4) 被害車両 普通貨物自動車(名古屋四四た六一五三(以下「曾我車」という)

(5) 加害車両運転者 被告倉橋

(6) 加害車両 普通貨物自動車(京都一一あ八三三五)(以下「倉橋車」という)

(7) 事故の態様

被害者亡光子が原告海五の運転する曾我車に同乗して、名神高速道路を一宮市から大垣市方面に向かつて走行中、右事故現場付近において、被告倉橋の運転する倉橋車に追突され、路肩のガードレール等に衝突、そのショックでフロントガラスが割れ、同所から助手席に座つていた被害者亡光子が車外に放り出されたもの。

(二)(1) 日時 (一)(1)とほゞ同じ

(2) 場所 (一)(2)とほゞ同じ

(3) 被害者 (一)(3)と同じ

(4) 被害車両 (一)(4)と同じ

(5) 加害車両運転者 被告大山

(6) 加害車両 営業用大型乗用自動車(名古屋二二か三七一〇号)(以下「大山車」という)

(7) 事故の態様

亡光子が原告海五の運転する曾我車に同乗して、名神高速道路を一宮市から大垣市方面に向かつて走行中右(2)場所付近において倉橋車に追突され、路肩のガードレール等に衝突し、そのショックで曾我車のフロントガラスが割れ、助手席に座つていた亡光子が、同所から車外に放り出されたところを、被告大山運転の大山車が轢過したもの。

2  (結果)

亡光子は、右交通事故により頭蓋骨骨折、脳挫傷の傷害を負い、救急車で即日馬渕病院に搬送されたのであるが、すでに右傷害により即死していたものである。

3  責任原因

(一) 被告倉橋

被告倉橋は、時速九五キロメートルの高速で大山車を追い越し、再び走行車線に戻つたところ、自車の前方約五四メートルの走行車線上を時速五五キロメートルで先行している曾我車を認め、これを追越そうとしたのであるが、このような場合、自動車運転者としては先行する曾我車の動静を十分注視し、その速度に応じて自車との間に十分な車間距離を保持し、その安全を確認して進行すべき義務があるのにこれを怠り、曾我車と自車との車間距離が短かくなつていることを確認しながら曾我車の動静に注意を払わず、追越車線後方からの自動車の走行の有無の確認のみに気をとられ、漫然前記速度のまま進行するという過失により前記事故を発生させたものであるから不法行為(民法七〇九条)により損害を賠償すべき責任がある。

(二) 被告洛西

被告洛西は、被告倉橋の使用者であり、本件交通事故は被告洛西の事業執行中に起きたものであるので、被告洛西は使用者責任(民法第七一五条)にもとづき損害を賠償する責任がある。

また、被告洛西は加害車両の所有者であり、運行供用者であるので、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という)第三条にもとづき損害を賠償する責任がある。

(三) 被告大山

被告大山は曾我車と倉橋車の前記追突事故を自車の一〇〇メートル以上手前の地点(亡光子が倒れていた路上地点からは一四〇メートル以上手前)で発見しながら、急制動の措置をとることなく、そのまま路肩寄りに大山車を進行させた過失により亡光子を轢過し、死亡させたものであり、仮に被告大山が右追突事故を発見したのが約四〇メートル手前だとしても同被告には安全な車間距離保持義務違反の過失があるから、被告大山は直接の加害者として不法行為による損害を賠償すべき責任がある。

(四) 被告遠州

被告遠州は被告大山の使用者であり、本件交通事故は、被告遠州の事業執行中に起きたものであるから、被告遠州は使用者責任(民法第七一五条)にもとづき損害賠償責任がある。

被告遠州は大山車の所有者であり、運行共用者であるから、自賠法三条にもとづき損害賠償責任がある。

4  因果関係

(一)(1) 亡光子の死因は外傷性脳障害であるが、これは同女の(A)頭頂部の創、(B)後頭部の創、(C)顔面右上の創の三つの創傷をもたらした外力により生じた(イ)右眼窩上縁から始まり頭蓋骨をほゞ前後に走つて後頭骨に至る骨折及び(ロ)頭頂部の陥没状骨折により惹起された。

(2) このうち(A)と(B)の創傷の成傷器は稜状突起部のある固い鈍体であり、アスファルト道路の如き平板状の鈍体ではない。右(A)(B)(C)の創傷は異なつた方向からの外力により生じたものである。

(3) 右(C)の創傷は稜状よりもつと平板に近い力によつて生じたものであり、アスファルト路上に放り出された際にできた可能性がある。右(イ)の骨折は全く時刻を別にして、前に当つた外力、それから後に作用した外力によつてできたとも考えられる。右(B)の創傷は自動車の車底部と衝突してできたものである。

(二) 右事情及び本件事故の状況に照らせば、亡光子の死因である外傷性脳障害が、大山車通過の際に、同車の車底部が亡光子の頭部頭に衝突したことが一つの原因となつて生じたことは明らかである。

(三) 亡光子の体の上を大山車が通過することになつたのは、倉橋車による追突の結果曾我車が路肩のガードレールに衝突し、そのシヨツクで同車助手席に座つていた亡光子が車外に放り出され、そのまま路上に倒れていたからである。

しかも亡光子の死因となつた外傷性脳障害をもたらした外力の一つは、前記(C)の創傷の発生原因から明らかなように、亡光子が倉橋車の追突の結果、路上に放り出された際のものである。

本件において、倉橋車の追突により曾我車がガードレールに衝突し、亡光子が路上に放り出されること、放り出されて路上に倒れた同女の上に後続の大山車が急停車等適正な措置をとることが遅れたためにそのまま通過してしまうことは社会通念上一般的にありうることであり、異常な態様とはいえず、被告倉橋の追突行為と亡光子の死亡との間には相当因果関係がある。

5  (損害)

(一) 医療費(金三万九四五〇円)

馬渕病院で要した医療関係費は左のとおりである。

検案料 金三万円

寝巻 金二三〇〇円

三角巾 金一五〇円

文書料 金七〇〇〇円

(合計 三万九四五〇円)

(二)(1) 葬儀費用(金九〇万円)

葬儀費用としては金九〇万円が相当である。

(2) 遺体運搬費 三万五〇〇〇円

(三) 慰謝料(金一五〇〇万円)

慰謝料としては金一五〇〇万円が相当である。

(四) 逸失利益(金一二五七万四五五一円)

被害者亡光子は、本件事故当時満五七歳(大正一四年一月二日生)であり同年齢の女子労働者の平均年収は金二二六万一〇〇〇円(昭和五八年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計による)である。生活費三〇パーセントを控除し、六七歳まで就労可能と考えて、ホフマン方式により中間利息を控除して逸失利益を計算すると金一二五七万四五五一円(二二六万一〇〇〇円×〇・七×七・九四五)となる。

(五) 弁護士費用(金一〇〇万円)

弁護士費用としては金一〇〇万円が相当である。

(六) 合計

以上の損害額の合計は金二九五四万九〇〇一円である。

6  (既払)

(一) 被告洛西から金三三万五〇〇〇円、自賠責保険から金一四八〇万七六〇〇円が支払われている。

(二) よつて、損害額合計から右既払分を差し引くと、金一四四〇万六四〇一円となる。

7  (相続)

亡光子は、昭和五七年一一月一八日死亡したので、原告らがその相続人として亡光子の権利義務一切を承継した。

なお、原告海五は亡光子の夫であり、原告政夫は亡光子の子であるので、相続持分はそれぞれ二分の一ずつである。

8  よつて原告海五は被告らに対し連帯して本件事故に基づく損害賠償金七二〇万三二〇〇円及びこれに対する本件事故日である昭和五七年一一月一八日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払、原告政夫は被告らに対し連帯して本件事故に基づく損害賠償金七二〇万三二〇〇円及びこれに対する前同昭和五七年一一月一八日から完済に至るまで前同年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因第1項について

(被告倉橋、被告洛西)

同項(一)(1)ないし(6)の事実は認める。

同項(一)(7)のうち亡光子が原告海五の運転する被害車両に同乗して名神高速道路を一宮市から大垣市方面に向かつて走行していたこと、被害車両が右事故現場付近で被告倉橋の運転する加害車両に追突されたこと、フロントガラスの割れていること、亡光子は助手席に座つていたが車外に放り出されたことは認めるが、被害車両がガードレールに衝突したこと、フロンドガラスの割れた原因、亡光子が車外に放り出された経緯は不知。

(被告大山、被告遠州)

同項(二)(1)ないし(4)の事実は認める。

同項(二)(7)の中、亡光子が原告海五の運転する曾我車に同乗して名神高速道路を一宮市から大垣市方面に向かつて走行中、倉橋車に追突されたため、亡光子が車外に放り出されて死亡したこと、そのころ右事故現場付近を被告大山が営業用大型乗用自動車(大山車)を運転して倉橋車の後方を走行していたことは認め、大山車が亡光子を轢過したとの点を否認し、その余は不知。

2  請求原因第2項について

(被告倉橋、被告洛西)

同項の中亡光子が馬渕病院に搬送されたが既に死亡していたことは認めるが、その傷害の内容は不知である。請求原因1(一)の交通事故と右傷害、死亡との因果関係は存在しない。

(被告大山、被告遠州)

同項中亡光子が頭蓋骨骨折、脳挫傷を負い死亡したことは認めるが、右死亡が大山車が亡光子を轢過したことによるとの点は否認する。

3  請求原因第3項について

(被告倉橋、被告洛西)

同項(一)は争う

同項(二)のうち被告洛西が被告倉橋の使用者であること、本件事故が被告洛西の事業執行中に起きたこと、被告洛西が倉橋車を所有していることは認め、その責任は争う。

(被告大山、被告遠州)

同項(三)の中、被告大山が曾我車と倉橋車の前記追突事故を自車前方に発見したことは認めるが、その余は否認する。

同項(四)の中、被告遠州が被告大山の使用者であり、大山車の所有者であることは認めるが、その余は否認する。

4  請求原因第4項について

(被告倉橋、被告洛西)

同項(一)(1)、(2)の事実は認める。

同項(一)(3)の中(B)の創傷が自動車の車底部と衝突してできたことは認めるが、その余は争う。(A)(B)(C)の創傷は亡光子がアスフアルト道路に投げ出された際に生じたものではない。

同項(二)の事実は認める(但し、一つの原因たるに止まらず、死因原因の全てである)

同項(三)は争う。(倉橋車の追突と亡光子の死亡との間に相当因果関係はない)

(被告大山、被告遠州)

同項(一)(二)の事実は争う。

亡光子の頭部の傷害のうち最も重篤である頭頂部の陥没骨折は走行する自動車の下部によつては生ずることがない。

5  請求原因第5項について

(被告倉橋、被告洛西)

同項(一)の事実は認め、その余は争う。

同項(二)(2)の遺体運搬費は(二)(1)の葬儀費の一部として扱われるべきである。

(被告大山、被告遠州)

同項の各事実は不知。

6  請求原因第6項について

(被告ら全員)

同項(一)の事実は認め、同項(二)は争う。

7  請求原因第7項について

(被告ら全員)

同項中亡光子死亡の事実は認め、その余は不知。

三  被告らの主張及び抗弁

(被告倉橋、被告洛西)

1  本件事故は走行車線を進行していた大山車を追越車線を通つて追い越した倉橋車が走行車線に戻つたところ、前方を時速五〇キロメートル以下の低速で走行していた曾我車を発見し、そのまま直進したのでは衝突するおそれがあつたため、倉橋車は直ちに追越車線へ進路変更しようとして右後方の確認を終えて右転把しかけたが、そのとき倉橋車前部左端と曾我車後部右端が接触した。急制動をした倉橋車は追越車線をふさぐ形で停車し、曾我車は転倒して走行車線上に天井部分を下にして停車し、曾我車の助手席に同乗していた亡光子はシートベルトを装着していなかつたので車外に放り出されて路側帯に横臥したところ、倉橋車に後続していた大山車が倉橋車、曾我車に衝突するのを避けようとして路側帯を走行したため、そこに横臥していた亡光子を轢過し、同女を死亡させた。

2  亡光子が路肩帯に横臥しているところ、その頭上を大山車が通過し、このとき大山車の右後輪付近の車底部(右アツパーラジアスロツド取付部ブラケツト、ビームサポート、ベローズ、リヤアクスルケース)と亡光子の頭部が衝突し、この衝突による頭蓋骨骨折、外傷性脳障害により亡光子は死亡した。

3  亡光子は頭部、顔面の創傷が存しなければ、他の傷害(背中、腰部など)だけでは死亡に至らなかつたものであり、アスフアルト道路や路肩横のガードロープ、フエンスなどは頭部、顔面の成傷器とは考え難い。

したがつて亡光子は倉橋車の衝突もしくは路肩との衝突の衝撃のため曾我車から道路上に放り出されたことによつては未だ死亡するに至らなかつた。

4  被告大山は倉橋車と曾我車の衝突現場の一〇〇メートル以上手前で右衝突事故を発見し、制動をしており、その時ブレーキペダルを最大限踏み込んで急制動をしたならば右事故現場より十分手前で大山車を停車させることができた。

しかし被告大山は右事故を発見しながら漫然と制動をしたのみで時速九〇キロメートルから時速六〇キロメートルに減速するのに一三〇メートルも走行し、この間路側帯を通つて倉橋車と曾我車の衝突を避けようと考え、安易に左転把しただけで急制動しなかつた。被告大山は前記のとおり一〇〇メートル以上前方の高速道路上で先行車同士が衝突事故を起こしたのを発見したのであるから、高速道路上に停止するであろう事故車に更に後方から追突したり、事故車から路上に投げ出されるかもしれない運転者、同乗者を轢過することのないよう、直ちに急制動をして停車すべき注意義務があるのにこれを怠つた。

5  仮に被告大山が倉橋車と曾我車の衝突を四〇メートル手前で発見したのが事実であるとすれば、大山車と倉橋車の車間距離は三〇メートルに満たないし、曾我車との車間距離は四〇メートル位となる。

倉橋車が大山車を追い抜いた直後の車間距離は約二〇メートル位であるから事故まで殆んど車間距離は変わつていない。

高速道路を走行する運転者としては十分な車間距離を保持すべき義務があるのに被告大山はこれを怠つたため、停車した倉橋車や曾我車より手前に停車することができず、大山車の車底部が亡光子の頭部に衝突し同女を死亡させた。

(被告大山、被告遠州)

1  倉橋車が大山車を追越して、大山車の直前の走行車線に入つてきた時、被告大山はエンジンブレーキをかけて安全車間距離を保とうとした。

2  倉橋車が曾我車に追突した時点で大山車は倉橋車の後尾から約四〇メートル後方にあつたが、被告大山はその時は衝突事故があつたことはまだわからず、倉橋車と曾我車が左右に別かれるのを見て事故に気付いた。

3  そのため被告大山はとつさに急ブレーキをかけた。

4  ところが倉橋車が走行車線及び追越車線を塞いで停止したため、被告大山はやむなく制動をやゝ緩めて左転把して倉橋車との衝突を避け、乗客、乗務員及び被告倉橋の安全を確保した。

5  被告大山が亡光子が路上に横臥しているのを発見したのはその手前約一〇メートルであつたが、それ以前に同女を発見することは被告大山にとつて不可能であつた。

けだし大山車は倉橋車の後方にあり、被告大山は大山車の右側の運転席に座つており、前方路上には曾我車の積荷が散乱していたからである。

6  被告大山が、倉橋車と曾我車の衝突した時にいた地点から亡光子が横臥していた地点までは約八〇メートルであり(前記のとおり被告大山が実際に右衝突事故を知つたのは右地点よりいくらか進んだ地点であるからそこからの距離は八〇メートルより短くなる)、時速九〇キロメートルで走行している大型車がどんな急制動をかけたとしてもその手前で停止することはできなかつた。

7  被告大山が亡光子を発見した時は、大山車の左側はガードロープが張られており、右側には曾我車が転倒していて左右に逃げることができず、亡光子の上を通過する以外に道はなかつた。

8  被告大山は亡光子の頭部を轢過するのを避けるため、左タイヤを路側端縁石に乗り上げながら同女を跨ぐかつこうでその上を通過したものであり、通過の方法としては最善であつた。

9  亡光子の上を通過した以後はもはや急停止の必要がないため、被告大山は乗客の安全も考えてゆつくり停車したので、亡光子の位置と大山車の停止地点との距離が約一九メートルあつたとしても非難されるべきものでなく、被告大山、被告遠州に過失はなく、被告大山、被告遠州に責任はない。

10  大山車には構造上の欠陥及び機能の障害はなかつた。

(被告ら全員)

1  過失相殺

(一) 本件事故の発生したのは、名神高速道路であり、現場付近では、最高時速一〇〇キロメートル、最低時速五〇キロメートルに制限されていたところ、曾我車は最低速度の時速五〇キロメートルを下回る速度で進行していた。たとえ、時速五〇キロメートル程度であつたとしても、通常車両は八〇キロメートルないし一〇〇キロメートルで走行している名神高速道路において、時速五〇キロメートル程度で走行することは、通常に走行する自動車の流れを阻害し、交通の危険を発生せしめる行為と言うべきである。

(二) 高速道路を走行するときシートベルトを装着することが義務づけられているが、亡光子はシートベルトをしていなかつた。そして、シートベルトを装着しておれば車外に放り出されることはなく、さしたる傷害を負うこともなかつた。このことは、被害車を運転していた原告海五はさしたる傷害を負つていないことからも明らかである。

2  既払金

(一) 被告洛西は馬渕病院の治療費内金として一万円支払い同被告加入の任意保険である近畿交通共済協同組合が同病院の治療費残額二万九四五〇円を支払つた。

(二) 被告洛西は昭和五七年一一月一八日亡光子の葬儀費の一部として金二万九四〇〇円を支払つた。

四  被告らの主張及び抗弁に対する答弁

(被告倉橋、被告洛西の主張及び抗弁に対して)

1  同第1項中、倉橋車が走行車線を進行していた大山車を追越車線を通つて追越した後、走行車線に戻つた際、倉橋車前部左端を曾我車後部右端に追突させたこと、曾我車は転倒して走行車線上に天井部分を下にして停車したこと、曾我車の助手席に同乗していた亡光子がシートベルトを装着していなかつたこと、亡光子が車外に放り出されて路側帯に横臥していたことは認めるが、曾我車が時速五〇キロメートル以下の低速で走行していたこと、大山車が亡光子を轢過し死亡させたことは否認し、その余は不知。

2  同第2項の事実は認める。

但し亡光子の死亡したのは倉橋車の追突も原因の一つとなつている。

3  同第3項は争う。

4  同第4、第5項は認める。

(被告大山、被告遠州の主張及び抗弁に対する答弁)

被告大山、被告遠州の主張及び抗弁事実争う。

(被告ら全員の主張及び抗弁に対する答弁)

1  同第1項(一)は否認する。

同項(二)の中、亡光子がシートベルトをしていなかつたことは認めるが、その余は争う。道路交通法七五条の一〇第二項によれば、シートベルトの着用は同乗者の義務とまではされていない。

2  同第2項(一)、(二)の事実は認める。

第三証拠

本件記録の調書中の各書証目録、各証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  本件事故

請求原因第1項(一)(1)ないし(6)、(二)(1)ないし(4)(本件事故の日時、場所、関係車両及びそれらの運転手、被害者)の事実は当事者間に争いがない。

二  本件事故現場付近の状況、関係車両の状況

成立に争いのない乙第一、第四、第七号証、被告大山の本人尋問結果によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場付近道路は、アスフアルト舗装で平坦で乾燥しており、信号機はなく、駐車禁止、転回禁止の交通規制がなされており、倉橋車及び大山車(名古屋二二か三七一〇、被告大山運転)からの前方の見通しは良好であつた。

本件事故当時の天候は晴れであつた。

倉橋車は長さ八・四メートル、幅二・二六メートル、高さ二・四二メートル、最大積載量は四〇〇〇キログラムの普通貨物自動車で、ハンドルの位置は右であり、ハンドル、ブレーキ、制動灯は良好であり、本件事故直後、その前部を小破していた。

大山車は長さ一一・九六メートル、幅二・四九メートル、高さ三・三三メートル、定員五七名の営業用大型乗用自動車で、ハンドルの位置は右側にあり、ハンドル、ブレーキは良好であり、本件事故当時の乗客は約四六名(他に運転手被告大山とバスガイド各一名が乗務)であつた。

本件事故現場路面に倉橋車及び曾我車のスリツプ痕は存在したが、大山車によるスリツプ痕は残つていなかつた。

三  成立に争いのない乙第二号証、被告大山の本人尋問の結果によれば、本件事故直後の大山車の主な損傷、痕跡状態は次のとおりであつたことが認められる。

1  車両前部バンパー下のパイプ、前部ナンバープレートが後へ折れ曲がり、前部バンパー全面に血痕が付着

2  車両右側ボデイに凹損が存し、右後輪タイヤに擦過痕等が存在

3  車両左側前部乗降口付近に擦過痕、左前輪タイヤ、左後輪タイヤに擦過痕

4  車両車底部

(一)  車底部装着のスペアタイヤに擦過痕

(二)  フロントアクスル下端に擦過痕

(三)  右後輪付近の車底部

(1) 右アツパーラジアスロツド取付部ブラケツトに擦過痕、同ブラケツト後面下端に血痕が星状飛散付着

(2) ビームサポート前面、内面に血痕が星状飛散付着、同サポート内面前端から二二糎の三角状突起部前面に血痕付着、同サポート下面に擦過痕

(3) ロウラジアスロツド上面に血痕が星状飛散付着

(4) ベローズ下面、内面に血痕が飛散付着

(5) リヤアクスルケース前面に血痕が星状飛散付着

(6) 右後輪タイヤ内面に血痕、擦過痕

(7) スタピライザーに血痕付着

(四)  左後輪付近車底部

左アツパーブラケツト底面、内面に擦過痕

四  当事者間に争いのない事実、前記認定事実及び成立に争いのない乙第一、第四ないし第八号証によれば、次の事実が認められる。

1  被告倉橋は倉橋車を運転して名神高速道路下り線三六八・八キロポスト(以下「本件kp」という)手前付近を愛知県一宮市方面から岐阜県大垣市方面へ向かつて時速約九五キロメートルで西進中、先行する大山車の追越しを開始し、追越車線に入り、大山車と並進し、大山車の追越しを完了し、走行車線へ入つた。

2  原告海五は曾我車を運転し、名神高速道路下り線を時速約五五キロメートルの速度で一宮市方面から大垣市方面に走行しており、亡光子は曾我車の助手席に乗つていたがシートベルトは装着していなかつた。

3  被告倉橋は、自車の前方約五四メートルの走行車線上を曾我車が時速約五五キロメートルの速度で走行しているのを認め、同車を追い越そうとしたが、先行する曾我車の動静を十分注視せず、漫然前記1とほゞ同速度で進行しつつ、自車の右側バツクミラーで追越車線上の車両の進行状況を見、同車線上に通行する車両がないことを確かめたうえ、同車線に進路を変更しようとして再び前方を見たところ、自車が曾我車の後方約六・八メートルに接近しているのに気づき、急ブレーキをかけ、右転把したが間に合わず、本件kpより約四メートル西側地点において、倉橋車左前部を曾我車右後部に追突させ、右曾我車を路肩の縁石等(本件kpより約二七メートル西側)に衝突させた後、同車を走行車線上に転倒させ(本件kpより四〇メートル位西側)、衝撃により曾我車のフロントガラスが割れ、亡光子は左路肩に投げ出され、数回横転したうえ、仰向けに転倒した(本件kpより四四・二メートル位西側)。

倉橋車は曾我車に追突後右回転してその前部を中央分離帯方向、後部を左路肩方向に向けて追越車線の全部、走行車線の大部分をふさぐような形で本件kpより二六・九ないし二九・二メートル位西側の地点で停止した。

4  大山車は倉橋車が曾我車に追突したのを発見しゆるやかに制動をかけながら進行し、その間、追越車線の全部及び走行車線の相当部分を横向きにふさいで停車していた倉橋車の左横の路肩部分を通過しようとしてハンドルを左に回し、自車を路肩方向によせて走行を続け、左路肩に転倒している亡光子の上をまたぐ形で通過し、本件kp西側約六三メートル(大山車後端)地点で停車した。

なお大山車は、倉橋車の左横を通り過ぎて路肩を通行する際、本件kp西側約三五・一メートルないし四〇メートル位の地点で左路肩縁石等と接触し、本件kp西側約四〇メートル地点で曾我車と接触した。

五  成立に争いのない乙第三、第一三号証の一、二、証人勾坂馨の証言によれば次の事実が認められる。

亡光子の主な創傷は外部検査によると

(1)  頭頂部正中を前右から後左に走る四・五糎の挫創等(以下「頭頂部の創」という)

(2)  外後頭部結節部を左かすか上から右かすか下の方向に走る六糎の割創等(以下「後頭部の創」という)

(3)  顔面右眉中央の五糎上方に後右から前左に長い七×三・五糎の表皮剥離があり、その上端部に同方向に走る三・五糎の創(以下「顔面右上の創」という)

(4)  その他、背部、下肢、上肢の表皮剥離、皮下出血等がある。

亡光子の内部検査による主な創傷は

(イ)  右眼窩上縁(B)から始まり一一糎後進して冠状縫合正中部(B1)を通り更に一糎後進し(B2)、これより左に凸の弧を画き(長さ六糎、後端をB3とする)更に八糎後進して左頭頂結節に向う骨折、B3から後右に凸の弧を画いて七・八糎前右進し(B4)、更に右耳に向かつて四・七糎下進(B5)する、B―B1間でBの二・五糎上方(B6)からB5を結ぶ一一糎の骨折、B4の〇・七糎B3側(B7)から三・五糎左進し、B2の一糎後方(B8)に達する骨折、B2―B3間でB2の二・五糎B3側(B9)とB2、B8に囲まれる三か月形の骨は遊離し、頭腔内に落ち込み、B2―B3―B4に囲まれた円形の部分は陥没状を呈し、頭蓋底でみるとBから前頭蓋窩を六糎左進し、左眼窩上縁に達する骨折、またBから右小翼中央を通り更に右大翼に達する七糎の骨折があり(篩骨篩板からトルコ鞍部は粉砕状となる)、

(ロ)  脳左右前頭葉、頭頂部の軟膜出血、左側頭葉下面、左前頭葉下面挫傷があり、

(ハ)  頸部第五、第六頸椎間軟骨破裂出血があり、

(ニ)  第二腰椎前左側骨折、左股関節脱臼、左大腿骨骨頭上位転位があるが、

(ホ)  内蔵は、肺を除き殆ど損傷はない。

亡光子の死因は前記(1)、(2)、(3)の創傷を生じさせた外力による外傷性脳障害と認められる。

頸椎損傷は前記(1)ないし(3)の創傷を生じさせた外力により生じたものと認められる。

前記(1)の頭頂部の創は、軽度の稜状突起部あるいは角を有する硬い鈍体が打撲的に作用して生じたものと認められ、

前記(2)の後頭部の創は稜状の作用部をもつた鈍体の打撲により生じたものと認められ、

前記(3)の顔面右上の創は、右(2)に作用した稜状によりもつと平板に近い力により生じたものと認められる。

前記(1)ないし(3)の各創が路肩のガードロープ又はその支柱等に衝突したことにより生じたことを窺わせる証拠は存在しない。

以上認定の事実を総合すると、大山車が亡光子の身体の上をまたぐような形で通過する際、大山車の車底下部が亡光子の頭部等に接触し、その衝撃で亡光子は頭蓋骨骨折に基づく外傷性脳障害により死亡するに至つたものと認められる。

六  被告大山、被告遠州の責任

1  被告大山が、倉橋車と曾我車との追突事故を発見し制動し始めた地点について判断するに、前記認定事実及び成立に争いのない乙第九ないし第一一号証によれば、大山車は時速約九〇キロメートルの速度で走行していたが、ある地点で制動が働き、約一三〇メートル走行して減速し、時速約六一キロメートルとなり、そこで更に制動が働き減速し約三〇メートル走行し時速約四九キロメートルとなり、そこで事故による衝撃を受けているという事実が認められる。この事実に成立に争いのない乙第一、第七号証及び被告大山の本人尋問の結果を総合すれば、右にいう事故による衝撃とは、大山車が倉橋車の横を通過する時に左路肩縁石と接触したことによるものか、曾我車と接触したことによるものであると推認でき、さらにその地点が倉橋車と曾我車との追突(以下「第一事故」という)地点から約三一・五ないし約三六メートル西側であることからすると、被告大山が最初に制動を始めたのは第一事故地点から少くとも約一二〇メートルは東側であることが推認できる。

2  以上認定の事実(本件事故現場に大山車のスリツプ痕がなかつた事実も含む)に、成立に争いがない乙第七、第八号証及び被告大山の本人尋問結果(後記信用できない部分を除く)を併せ総合すると、被告大山は倉橋車と曾我車の追突事故(第一事故)を発見し、少くとも約一二〇メートル手前から制動を講じつつ約一三〇メートル進行し、時速約六一キロメートルに減速し、その間、前記のとおり追越車線と走行車線の相当部分をふさいで停車していた倉橋車の左横の路肩部分を通過しようとして左に転把し、自車を左路肩方向に寄せ、更に制動を講じつつ減速して走行したところ、前方の地点に亡光子が足を中央分離帯方向に、頭を路肩方向に向け、あお向けに倒れているのを認めたが、もはや同女の手前で停車することができないものと考え、できるだけ同女の頭部に損傷を与えないように自車を更に左側に寄せ、自車の左側車体がガードロープ、左路肩縁石に接触させながら進行し、前記のとおり同女をまたぐかつこうで通過し、その結果、自車車底部を同女の頭部に衝突させたものと推認できる。

3  これに対し、乙第一号証(実況見分調書)には、倉橋車が大山車を追越そうとした地点、追越を完了した地点が記載されており、これらの位置関係から、被告大山は当裁判所において、第一事故を発見した地点は第一事故地点より約四〇メートル手前であつたと供述している。

しかしながら、右実況見分調書におけるこれらの位置距離関係については、被告大山の本人尋問の結果によれば、それが正確でないことが認められ、路面、縁石等のキズ痕跡や残置物等の客観的資料の残つている地点や事故後の状況を除き、たやすく信用することができない。また成立に争いのない乙第七号証によれば、被告大山は刑事裁判において、第一事故を発見したのは約七〇メートル手前であつたとくり返し証言していることからしても前記被告大山の当裁判所における供述はたやすく信用することができない。

4  以上認定の事実に、成立に争いのない乙第七、第八号証及び被告大山の本人尋問結果(前記信用できない部分を除く)を併せ総合すると、被告大山は曾我車が左路肩縁石等(本件kpの西側約二七メートル地点)に衝突し、横転した状況を、右衝突地点手前少くとも八〇メートル地点では認識していたことが認められる(第一事故発生地点から曾我車が左路肩縁石等に衝突するまで約一・五秒経過していると認められる)。

右によれば、右地点において後続車運転者である被告大山としては曾我車からその乗員が路上に投げ出される可能性があることを十分に認識しうる筈であり、その点に注意して前方を注視し、十分な減速制動をすべき注意義務があると認められる。

以上認定事実及び前掲各証拠によれば、被告大山が曾我車が左路肩縁石等に衝突したのを認識した地点から亡光子転倒地点(本件kpの西側約四四・二メートル)までの距離は少くとも九五メートル位はあつたものと認められ、被告大山(当時の大山車の時速八五キロメートル以下)において曾我車が左路肩縁石等に衝突したのを認識した地点において十分な制動をかければ、亡光子転倒地点手前で停止することが可能であつたのに、前記注意義務を怠り、不十分な制動措置しかとらなかつた過失が認められる。

(一)  空走距離及びブレーキを踏んでから最大制動力に達するまでの間に要する距離(時速八五キロメートル以下)二三・六メートル以下

(二)  狭義の制動距離(路面摩擦係数が〇・五五を下回ることはないと認められる)五〇・七メートル

右(一)と(二)の合計は七四・三メートル以下である。

5  被告遠州が被告大山の使用者であり、大山車の所有者であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第七号証によれば本件事故は被告大山が被告遠州の事業執行中に起きたものであることが認められる。

したがつて被告大山は前記過失により民法七〇九条(不法行為)に基づく損害賠償責任、被告遠州は民法七一五条(使用者責任)及び加害車両(大山車)の運行供用者として自賠法三条に基づく損害賠償責任があると認められる。

七  被告倉橋、被告洛西の責任

1  被告倉橋については、前記のとおり、先行する曾我車の動静を十分注視し、その速度に応じて安全な車間距離を保持すべき義務を怠り、漫然と高速進行した過失により曾我車後部に追突し、前記認定経過により亡光子を死亡するに至らしめたものであり、右のような経過で亡光子が死亡することは社会通念上一般的に予見可能性があり、被告倉橋の右過失と亡光子の死との間には相当因果関係が存すると認められる。

2  被告洛西が被告倉橋の使用者であり、本件事故が被告洛西の業務執行中に起きたこと、被告洛西が倉橋車を所有していることは当事者間に争いがない。

したがつて被告倉橋は前記過失により民法七〇九条(不法行為)に基づく損害賠償責任があり、被告洛西は民法七一五条(使用者責任)及び自賠法三条(加害車両の運行供用者責任)に基づく損害賠償責任があると認められる。

3  なお被告らの前記各損害賠償責任は不真正連帯債務の関係にあると認められる。

八  損害

1  医療費 金三万九四五〇円

請求原因第5項(一)の事実(馬渕病院で要した医療関係費が合計で三万九四五〇円になること)は原告と被告倉橋・被告洛西間で争いがなく、原告と被告大山、被告遠州間においても原本の存在及び成立に争いがない甲第五、第六号証により認めることができる。

2  葬儀費用・遺体搬送費

本件事故により亡光子が死亡したことは当事者間に争いがないところ、弁論の全趣旨及び原本の存在及び成立に争いがない乙第一四号証によれば、原告らが亡光子の葬儀を執行したこと、亡光子の遺体搬送費として三万五〇〇〇円を要したことが認められ、本件事故と相当因果関係ある葬儀費用及び遺体搬送費は計八三万五〇〇〇円と認められる。

3  逸失利益

成立に争いのない甲第一号証によれば、亡光子は大正一四年一月二日生れで本件事故当時五七歳であつたことが認められる。。

賃金センサス昭和五七年産業計企業規模計学歴計女子労働者五五歳ないし五九歳の平均賃金は年額二一六万六〇〇〇円である。。

14万6700×12+40万5600=216万6000(円)

生活費控除 四〇パーセント

ホフマン係数(六七歳まで就労可能として)

七・九四五

従つて亡光子の逸失利益は次の計算により

216万6000×(1-0.4)×7.945=1032万5322(円)

となる。

4  慰謝料

以上認定の一切の事情を総合すると、亡光子死亡による慰謝料としては金一三〇〇万円が相当と認められる。

5  以上1ないし4の各損害を合計すると

3万9450+83万5000+1032万5322+1300万=2419万9772(円)

となる。

6  過失相殺

亡光子には前記認定のとおり高速道路走行の曾我車の助手席に同乗する際、シートベルトを装着しなかつた過失があるから、前記5認定の損害につき一割の過失相殺をすべきである。

2419万9772×(1-0.1)=2177万9794(円)

7  損益相殺

自賠責保険から一四八〇万七六〇〇円、被告洛西から三三万五〇〇〇円、葬儀費の一部として更に金二万九四〇〇円、治療費として被告洛西及び同被告加入の任意保険である近畿交通共済協同組合から計三万九四五〇円が原告に支払われていることは当事者間に争いがない。

1480万7600+33万5000+2万9400+3万9450=1521万1450(円)

これを前記6認定の損害から差し引くと

2177万9794-1521万1450=656万8344(円)

となる。

8  原告らは亡光子の相続人であり、その相続分は各二分の一であるから、原告らは右7の各二分の一である各金三二八万四一七二円の損害賠償請求権を相続した。

656万8344÷2=328万4172(円)

9  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば原告らが本件事故による損害賠償請求のために弁護士に訴訟委任をし、相当の報酬を支払うことを約したことが認められる。

本件事案の難易、請求認容額、その他一切の事情(本件事故時からその支払時までの間に生ずることのありうべき中間利息を不当に利得させないことも含む)を総合すると、本件事故と相当因果関係ある弁護士費用は原告海五につき金二〇万円、原告政夫につき金二〇万円と認められる。

10  前記8認定の損害と前記9認定の損害を合計すると原告両名につき各金三四八万四一七二万円となる。

328万4172+20万=348万4172(円)

九  以上によれば原告らの本訴請求は、原告海五が被告らに対し連帯して本件事故による損害賠償金三四八万四一七二円及びこれに対する本件事故日である昭和五七年一一月一八日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、原告政夫が被告らに対し連帯して同損害賠償金三四八万四一七二円及びこれに対する前同昭和五七年一一月一八日から完済に至るまで前同年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容すべきであり、原告らの被告らに対するその余の請求は理由がないから、これを棄却すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 神沢昌克)

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